だから僕は話したい



 いつか終わる特別よりも、ずっと続く日常になりたい。


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 22日

 会社が終わった僕は、地元でSくんと会った。
 彼はNくんを連れていた。二人は親子だった。そして僕の好きな親子だった。
 Sくんは少し変わったところがある友人で、結構長いこと友人だ。
 Nくんとの付き合いはここ二三年になるが、彼も天衣無縫で面白い少年だ。
 つまりこの二人の絆はとても強い。つまりこの二人は面白い。
 つまり僕は楽しい。

 僕達は近所の公園に向かった。
 Nくんが行きたがった。
 Nくんは狂ったように笑いながら公園を走り回っていた。
 Sくんと僕はそこそこ大人なのだが、Nくんを追って公園を走り回った。僕たちが追いかけるとNくんは更にテンションを上げて公園を逃げて行った。僕達はついつい彼を喜ばしたくなる。彼を喜ばすためなら誰にも見せない変顔だってやる。子供ってずるい。

 Nくんは、そこそこ高い場所に登れるようになったらしく、
「ねえ見て! 見て!」
 と僕らに呼びかけながら公園の植木のある壁(60センチくらい)をよじ登り、そこからジャンプして降りるということを繰り返していた。

Sくん「昔はさあ、ジャンプするだけで一日潰せたんだよね」
僕「そうだなあ。同じジャンプは無いからなあ」
Nくん「伏田ちゃんやってみて? えっ、伏田ちゃんやってみて?」
僕「飛んでもいいんだけどさあ、股がバリーンてなるからさあ、バリーン!」
Nくん「(爆笑)」

 公園で遊んだあと、わたみん家に入って少し飲んだ。
 久しぶりに酒を入れてしまった。
 僕は断酒していたのだが、まあ機会飲酒くらいならいいかなと思った。
 Sくんと大人の話をした。
 Nくんと子供の話をした。
 Nくんは食べすぎて吐いた。僕達はそれをおしぼりで拭いて捨てた。
 Sくんは謝っていたけれど、僕たちも吐いたことくらいあるのだった。それも無数に。
 Nくんはやたらオラオラしたイキリ言葉にハマっていたらしく、
「シャケ待ってろよ!」
「おにぎり待ってろよ!」
 等、よくわからないものに喧嘩を売っていた。
 ぼうっと座って飲んでいる僕の横に走ってきて、意味不明なことを呟いて逃げていく遊びもやっていた。
 とても大切なことを打ち明けるトーンで、
「トナカイ……まままま……」
 みたいなこと耳元で言っていく。
僕「Nくんさあ、今トナカイままままって言った?」
Nくん「(爆笑)」
 楽しかったよ。

 それから僕は酒の勢いを借りて前から行ってみたかったフィリピンパブみたいなところに単身潜入したのだけれど、カラオケスナックに姿を変えていて、新人だというママがしきりに歌うように薦めてくるのでTHE YELLOW MONKEYの「バラ色の日々」を歌ったら、カウンター席に陣取っていたママの知り合いと思われる三人組がマラカスを振り鳴らして盛り上がってくれて死にたくなった。人前で歌をうたったのはいつ以来だろうか……?
 ママの水割りを作る速度が尋常ではなく、僕は永遠に水割りを飲み続ける機械のように飲み続けた。僕が何故断酒しているのかというと、もちろん飲みすぎるからなのだった。
 店の一番偉いママが現れて、僕になにか言っていたのだけれど、周囲の歌声がうるさくて全く一言も聞き取れなかった。でもきっと、彼女は僕になにか伝えようなんて思ってないと思う。
とてもとても小さな声で話していたから。
 スナックのママにLINEを聞かれたので教えたら、笑っちゃうくらいハートマークが乱舞したスタンプが送られてきて、しみじみと笑った。スナックのママは40代半ばくらいの方である。ハート乱舞は流石に笑う。

 そこから更に行ったことのないスナックに飛び込んだら、50絡みくらいの飄々としたママ二人が居て、なかなか渋い経験をした。客は僕一人で、三人でぼうっとしながら壁にかかったテレビを見ていた。あれくらい落ち着いているとまるでドラマの中みたいだと思う。
ママ「ここ、日曜日はダンスクラブになるのよ」
 なんだか分からないけれど、スカイ・クロラっぽいなと思う。
 
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 追いかけても 追いかけても
 逃げてゆく月のように
 指と指の間をすり抜ける
 バラ色の日々よ

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23日

 社員のYさんが夜勤の研修の為、僕の作業をひたすら見守ることになる。
 相方がMさんだったので、上手いことYさんに話しかけてくれて現場が大変賑やかになった。
 僕は人見知りなので、仲良くなるまでに時間がかかる。
 けれどひとつだけ常に心がけていることがあって、現場をとにかく和やかな空気にしたいってことだ。
 新人さんが質問しやすい雰囲気。失敗してもフォローできる余裕。リラックスして作業できる環境。これが僕の目指しているところである。ワンくんとかMさんとか、最年少クラスはこの辺りのバランスが乱れがちでふざけすぎることがあるけれど、若いうちはそれでいいとやはり思う。イキっていけばいいし、怒られることも経験だし、いつも笑っていればいい。
 結局YさんとMさんはドラッグをやりにオランダに行きたいですね、というぶっ飛んだ話しにまで発展していて、深夜のテンション爆発だった。
 とあるリリースされたばかりの作業で他部署のミスがあり、Yさんに対応して頂いた。とても感謝した。僕の勤めている会社はファンキー過ぎて、関連部署の連中が揃って休暇を取ってしまって連絡がつかない人ばかりだった。

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 ほしふりそそぐ四畳半にてあたまをゆすぐ不眠ぱれえど孤独を誇れ


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24日

 夜勤明け、Mさんと渋谷のコアなラーメン屋に行くことに。
 酒を飲みながらヨレた格好で表参道とか歩いているとアウェー感が凄いけれど、僕は根がロックなので、オシャレな皆さんには我慢して頂きたいと考える。
 朝からやっている超大衆居酒屋に入って焼き鳥などを食べながらビールを啜っている。

Mさん「昼間から飲むと罪悪感凄いっすね~~」
僕「んなもん消えちまったよ……罪悪感なんてよ……」
Mさん「プーッ、くすくす……ですね……」

 やきとりもビールもよかった。
 ラーメンはとても美味しかった。
 少し街をぶらぶらして解散した。

 家に帰って眠った。
 夢の中で誰かとずっと話している気がした。
 あなたに聞いてほしいことがあるんだ。
 色々な光景が飛ぶように過ぎていく。
 色々な人が去っていく。

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 いつか終わる特別よりも、ずっと続く日常になりたい。


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