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ありふれたギルティー

●夜勤にて

 日付が変わる頃に仕事が終る。
 今日の相方はMさんだ。
 仕事が片付いたら二人で渋谷のなんとかラーメンを食べに行く予定だったのだが、Mさんが急に具合が悪くなったらしくてその話しがなかったことになった所だった。
「先輩~、ラーメンは行けないっすけど、なんか食べに行きませんか? この辺りで……どっか近くで……」
 とMさんが申し訳なさそうに言う。
 個人的には食べても食べなくてもどっちでもよかったので、会社の近くでどこか行くことになった。
 具合の悪いMさんが食べれそうな物を自ら検索した結果、セブンイレブンかマックに行くことになった。
 とても残念な選択だったけれどこれには理由がある。
 まず、そもそも深夜営業してるメシ屋が全然無いのだ。
 あってもラーメン屋である。ラーメンはMさんの気分ではないらしい。
 あとは居酒屋くらいなもので、深夜の仕事が終わっても朝方の仕事が残っているから酒は飲めない。
 となるとセブンかマックくらいしか無いのだった。
 まあそのラインナップなら二人で行く必要も特に感じなかったが、まだまだ年若いMさんのことである。たぶん一人で行動するのが嫌なんだろうと予想する。
 それに僕は付いて行くと言ってしまった手前、どこへでもお供する覚悟だった。
 回る寿司くらいなら奢ってもいいとすら思っていた。
 いちおうなんというか、腐っても先輩なのだ。
 僕だって死ぬほど先輩に驕って貰ったし、僕に奢ってくれた先輩は皆こう言っていた。
「俺たちはお前におごる。お前は後輩におごれ。そうやって繋がってくんだよ。……だから遠慮すんな」
 僕は頂いた恩義を返さなくてはならないのだ。
 先輩たちの望んだ通りのやり方で、それを返したいのだ。

 Mさんも僕もアウターを着込んでビルを出た。
 ビルの夜気はもう、春めいて暖かだ。
 Mさんが何か楽しそうに話をしていた。何を話していたのか全く覚えていない。僕は相槌を打ってた。ただ相槌を打ってた。きっと路地裏の木霊みたいだった。
 街は街灯で明るかった。いつまでも終わらない道路工事がうるさかった。国道を我が物顔で行く車は高級車ばかりだ。路肩のガードレールに座り込んだリーマンが懐から煙草を出した。ライトセーバーみたいな棒を持った警備員はぴくりとも動かず立ち尽くしている。灰色のビルの6階の窓に赤い服を着た女が立っていた。彼女はこちらを見ているようだった。どこかで何かが破裂する音がした。振り返ってみると故郷は遠かった。空は狭く、低かった。そしてこの夜も8時間後には終わってしまうらしかった。
「伏田先輩、あれほら! 立ち食いそば屋っすよ! 良いっすね~この時間でもやってんですね~」
 目の輝きがモノを言う場面って必ずある。
 蕎麦屋で蕎麦を立って食う夜。
 会社への帰り道、Mさんが面白いことを言った。
「かき揚げつけて390円でしょ!? 大体かき揚げが100円なんで、実質300円じゃないっすか!」
「実質390円だよ?」



●明け

 行く宛は決まっていた。
 平日にしか行けないところ、そして職場から近いところにあって、今自分が行きたいところ。
 となると「東京高等裁判所」だ。
 いやどんな趣味やねんと自分でも思うけれど、裁判の傍聴でもして気分を入れ替えようと思っていたところだ。
 東京高裁に行くのは、これで二回目である。

 東京高裁はでっかい割に地味な建物だ。
 桜田門の辺りの建物はみんなそう。威圧感があってでかくて偉そうな人がたくさんいる。
 けれど臆することは無い。それらの建物はみんな市民のためにあるのだから。
 裁判所の入り口で持ち物検査を受ける。
 無事に抜けた後は少し庁舎内を歩き回ってからすぐ外に出た。
 間違って「東京家庭裁判所」に入ったらしかった。

 先に言っておくけれど僕は裁判制度に詳しいわけでもないし、司法の勉強をしたわけでもない。知識はまるっきりゼロだと言っても過言ではない。
 最初はただ「死ぬまでに見ておかねばならない」と思って行っただけだし、裁判を見てからは「物凄く勉強になる」と気づいて傍聴が好きになっただけの、いわばファンみたいな物である。ここでどんなに高尚なお題目を唱えたとしてもこの見学を良い風に解釈してもらうことは叶わないだろうと僕は思う。
 例えば会社の人や友達に「裁判所に行ってきた」と伝えても、勉強熱心だとか、真面目だとか、全然思われないんである。どうもテレビに出ている傍聴マニアの人のせいで変な風に面白がられてしまう風潮があると思う。確かに傍聴は「映画みたいに面白い」という面も間違いなくある。けれど僕はどちらかと言うと「自分が裁判を受ける時に、裁判官や弁護士にどんな扱いを受けるのか」ということの方が気になるし、「どういう流れで裁判が行われるか知っておきたい」とも思っている。
 実際見てみると分かるけど、弁護人は被告に対して決して丁寧ではないし、裁判官はほとんど話しなんか聞いてないみたいだし、検察は顔が怖くて早口で何を言ってるかわからない。そういう部分をただ楽しむことなんて普通に考えてできるわけがない。被告の家族が同じ傍聴人席に座ってうなだれているのを見てなんとも思わないわけがない。自分の身に置き換えたらとんでもなくおっかない状況だし、
「それはいつだって自分の身にふりかかってくる可能性がある」
 ……という風にも考えている。
 傍聴は、ごく簡単に言うと、気持ちが引き締まるのである。
 ひとのふり見てわがふり直せというけれど、それの最たるところがこの裁判なのではないかと思う。
 今の日本は犯罪者が少し遠いというか、見えづらいというか、テレビの中の出来事になっていないか。
 市中引き回しの上打ち首獄門くらい見せしめてもらえたら、犯罪っていけないことだなってみんな分かると思うんだけれど、モラルの低下も甚だしいこの世でtwitterで炎上うんたらかんたらやってるのがなんだかケツの穴の小さい問題ばかりで、辟易してるところもある。
 平和なのは、とてもいいことだと思うけれどね。

●とある窃盗犯に弁護人が言ったこと

「あんたこのままじゃ泥棒人生だよ? 割に合わないってわかったよね?」

●とある窃盗犯が盗んだもの

「現金21万円と女児用パンツ6枚」

●とある覚醒剤取締法違反者が薬を隠した場所

「小学校の卒業証書の筒の中」

 恥ずかしいしおっかない。こんなのを人前でべらべら明かされて、喋り過ぎたら叱られて、黙ってると呆れられて、親が泣きながらこの子は真面目ないい子だとか言い始める裁判っていうこの場。
 うーん、さっきはべらべら良いことのようなことを書いたけど、本来的にはやっぱり覗き趣味だと言われても仕方ないなとは思う。
 ただ安心したいだけなのかもしれない。
 人間ってそれほどマトモでもないよって、再認識したいだけなのかもしれないな。
 人は本当に色々な理由で犯罪を犯す。
 健康の問題貧困の問題男女の問題ストレスの問題雇用の問題欲望の問題世間体の問題怠惰の問題。
 一見普通に見えるカップルが麻薬を使っている。
 気の弱そうなおじさんが殺人を犯している。
 イケメンの兄ちゃんがパンツを盗む。
 その人達が特別におかしかったわけではなくて、犯罪が実は近くにあるってことだと、僕は思うのである。
 ありふれた罪の中で暮らしている僕らは、いつしかそれに慣れていないだろうか。


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Comments 2

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hanaco  
No title

こんばんは。

裁判傍聴…実は結構、興味あります。
伏田さんが書かれたような、画面越しでは感じられないリアルな人間模様、それに対する好奇心みたいな感じで。不謹慎ですが。
でも、無関係の人が傍聴する理由なんてこんなものでもイイですよね…?

わぁぁ…背伸びして難しいこと書こうとしたらボロが出そうになりました。ちょっと、これぐらいで控えときます。笑
でももう一言言うとしたら、目には目を、歯には歯を推進派です。
車で人を何キロも引き摺った犯人がそれこそ市中引き回しになった時には、傍聴席でスタンディングオベーションします。
(そして摘み出されます)

ではでは、また。

2018/03/09 (Fri) 23:58 | EDIT | REPLY |   
伏田竜一  
Re: No title

 hanacoさん、こんばんは。

 傍聴の理由、それでいいと思います! むしろまっすぐで正しいとすら思います。この場合ひねくれて理屈こねてるのは明らかに僕の方ですのでw
 僕もそういう風に見てる部分もありますし、傍聴の権利ってたぶん「誰もが気軽に見てもいい」ってところが大事だと思ったりするわけです。だからこそその筋で有名な「傍聴おじさん」とかもいらっしゃるわけで(傍聴席で靴脱いで足組んでふんぞり返ってたりしますw)、かと思うと真面目にメモ取ってるスーツの人とかも居て、見方はほんとに人それぞれですよね。不思議な世界ですので覗いてみると面白いかもしれません。

 ボロが出そうになるの共感し過ぎて泣きそうになりましたw
 チラシの裏くらいの気軽さでコメント書いてくださいね。あんまり考えると疲れてしまうので。
 ハンムラビ法典のアレですね!(伏田が分かってない)
 確かに気分的には目に見えるくらいの等価で罪を償ってもらうのが一番わかり易い気がします。この方法って何故廃止にされたのか、ちょっと考えてみたんですが「犯罪者が逆に儲けてしまう可能性があるから」かもしれませんね。
 以下、思考遊戯でございやす。

 例えば凄い腕利きの絵描きが居たとしてですね、犯人が何かの拍子にブチ切れて絵描きの腕を切っちゃうわけですよ。それでハンムラビると、犯人の腕を切って終わりってことになると思うのですが、犯人の腕って絵描きの腕に比べると実は価値が低い……みたいな。じゃあ絵描きの腕の価値の分の罪を上乗せすればいいかなと思ったのですが、そうしようとした時に、犯人側に「いや腕切った同士だから等価だ」って言い張られてしまうとハンムラビルール自体を盾に取られてそれ以上請求できなくなる気がします。
犯人「目には目をって話しだったのに、目と他の財産も取るなんておかしいじゃねーか!」

 ――ここまで考えて、じゃあ今の日本の法律って罪に対してどれくらいの罰を与えてるの?ってところが不明だったので完全に行き詰まりました。
 今日の判決で、窃盗4件(計現金36万円くらいで計画的犯行で女物の下着を盗んでいた事件)の犯人が執行猶予付きの2年6ヶ月をくだされていましたが、これが重いのか軽いのかどうかも、なんだかわからなくなってきますね……。

 長くなってしまいました。
 ボロが出たところで、やめにしておこうと思いますw
 コメントありがとうございました!

 あっ、hanacoさんがスタンディングオベーションして摘み出されているシーンですが、それを僕がすかさずメモってブログに書きますね!
 そんな傍聴スタイルでございます。

2018/03/10 (Sat) 02:17 | EDIT | REPLY |   

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