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赤裸々ファンタジー

 私はソリノ。変な名前の女だ。文句あるか。ないな。よし。
 最初に言っておくことがある。私は恋愛小説が大嫌いだ。好きとか嫌いとか言い合っている文章を見ると背筋がズクズクッとして、気持ちが悪くなる。性分なんだから仕方ない。
 というかいつまでもダラダラと「好きなのかな嫌いなのかなうふんうふん」などと思いを巡らして枕を濡らすくらいならさっさと告白してダメなら次に行けばいいでじゃないか。まったく女々しいことこの上ない。いや女が読むようなもんだから女々しくていいのか。女らしくなくて申し訳ない。なんてこれっぽっちも謝罪の気持ちがないのに謝ってしまった。つくづく嫌な女だな私は。魔女に生まれればよかった。そうそう私はファンタジーなおとぎ話が好きなのだ。文句あるか。ないな。よし。
 自己紹介も終わったところで早速本題に入るが、私には彼氏がいてだな、まあサトシという名の青年で、そこそこ顔もよくて年収もよくて、どうやら私を愛しているらしいので交際することになった人なのだが……いや、恋愛小説が嫌いな女にだって恋人はいるんだ。というかさっきも言ったがさばさばしてれば別になんともないんだ。「好きだ」とサトシに言われたので「そうか、私もだ」と返事をして付き合うことになったんだ。全然恋愛小説っぽくない付き合い方なのだからオッケーだろ。文句あるか。ないな。よし。
 サトシとはそれなりに楽しく交際していたんだ。映画に行ったり公園に行ったりフェスで騒いだり飲みに行ったり、まあ普通の男女交際だ。それでまあ普通の交際にはよくありがちなのだが喧嘩をしてしまった。理由はなんだったかよく覚えてないくらい些細なもので、たしかラーメンにネギを入れないなんて信じられないとか、いや入れる方が邪道だとか、そんなよくわからない言い合いだったのがだんだんエスカレートしてきて、だからお前は人の気持がわからないんだとか、うるせえポケモンの主人公みてえな名前のくせにとか、そんな一生のトラウマになるような喧嘩にまで発展したわけだ。悲しいがよくあることだ。仲が良いほど喧嘩もあるってわけだ。まあ仲直りすればいいやくらいに思ってその日は別れたんだが、その日の夜のうちにサトシの母君から連絡があってな、「サトシが倒れました」っていうんだ。まさかと思って一瞬頭が真っ白になったが、私は頭が真っ白になって泣き出したり前後不覚になるような女が大嫌いだからさっさと病院に向かった。だってそうだろう。私がどれだけうろたえたってサトシは回復しないんだから、やるべきことをやるだけだろう。文句あるか。ないな。よし。
 病院に向かうとサトシの母君はハンカチで目元を拭っていて、サトシはベッドの上ですやすや眠っていた。なんだか苦しんでる様子もないし、わりと大丈夫なんじゃないかと思ったのだが全然ダメだった。医者が言うには、サトシは死ぬらしい。しかもあと一週間で。さすがの私も度肝を抜かれて思わず母君のハンカチを奪って八つ裂きにしてしまったくらいだ。哀しみというか怒りだ。私はサトシにめちゃくちゃキレていたんだ。こいつただじゃおかねえと思ったんだ。だってサトシ、まるで恋愛小説のヒロインみたいじゃないか。不治の病に侵された女が出てきて最後に死んじゃって、泣いちゃいました感動しましたみんなに見て欲しいです……ふざけるな。ふざけるなよ私の彼氏のくせに! 激怒した私は医者につかみかかって治療法を聞いた。なかった。当然だった。私が聞いて答えられるなら医者がもうやってるはずだ。役に立たなそうな医者だったが首元をぎゅうぎゅう締めているうちにこんなことを言った――この病は今世界中で爆発的に流行っていて眠り病と呼ばれていて、罹患したら最後、一週間ぴったりで眠るように死んでしまう――私はショックなんか受けない。気に入らないものには全力で抗う。ここで泣いたら恋愛小説になってしまう。医者を放り出して病院を出て家に帰った。パソコンを立ち上げ世界中の眠り病の情報を集めた。世界中で流行っているなら一件くらい完治した例があるかもしれないじゃないか。私は24時間眠らずに調べ上げた。でも本当に一件も完治の例はなかった。ただ世界中で流行していることはわかった。そして患者の大半は若い男であることが分かった。患者の共通点は特に見当たらず、みんな手探り状態だったけれど、ロシアのとある女が「祈ったらちょっと彼氏の目が開いた気がする。彼氏とは喧嘩したままだから絶対に目を覚まして、仲直りしたい……」とネットに書いていた。後半は無駄な意見だったが、前半は実りある情報だった。早速やることにした。今はどんな可能性にでも賭けたいんだ。文句あるか。ないな。よし。
 私は祈った。24時間祈った。滝に打たれて祈った。蝋燭に囲まれながら祈った。とあるビルの屋上に登ってみんなで手をつないで輪になりながら祈った。神に祈った。仏に祈った。ビリケンさんに祈った。悪魔に祈った。邪神に祈った。クトゥルフに祈った。都市伝説に祈った。古代遺跡に祈った。UFOに祈った。でもサトシは目を開けなかった。でも私は諦めなかった。
 モンゴルの女が「彼氏と手を繋いだら鼻息が荒くなった気がする。なんで私、彼にあんなこと言っちゃったんだろう。本当に自分を殺してしまいたい」と書いていた。死ぬとか考える前に出来ることをしろと私は思った。私はサトシと手をつないだ。看護婦が来ても医者が来ても誰が止めても手をつなぎ続けた。手を撫でたり振り回したり胸に当てたり舐めたり熱湯をかけたりもしてみた。ちょっと情報よりたくさんのことをしたが、それももちろん可能性を探るためだ。でも効果は無かった。効果と言えば医者と看護婦とサトシの母君に軽蔑の目で見られるようになったくらいだ。でもそんなのは私にとっては些事だ。0.0001%でも可能性があれば試してみる。それが今私にできることだろう。文句あるか。ないな。よし。
 イスタンブールの女が言った。「頭をなで続けたら、彼が寝言を言った気がするの。早く目覚めて。私を許して……」私はサトシの頭が禿げるまで24時間撫で続けた。ダメだった。私は諦めなかった。
 アメリカの女が言った。「彼の好きなロックをかけたらイビキをかいたわ! さあ目覚めて、喧嘩の続きをするのよ!」私はサトシの耳にイヤホンをツッコんで24時間音楽を鳴らしまくった。ダメだった。私は諦めなかった。
 イギリスの女が言った。「抱きしめてたら心臓の鼓動がはやくなったと思う。もし良かったらやってみて。彼が眠る前にすっごい喧嘩しちゃったんだ。絶対に、絶対に私は諦めない」サトシの肋骨が折れるくらい抱きしめた。24時間抱きしめたんだ。でもダメだった。私は諦めた。文句あるか。あるよな。あるよ。私は諦めたんだ。
 日本の女が言った。「何をしても無駄だよ。あんた達の彼氏も、私の彼氏も、もう眠ったままだよ。仲直りはできない。これは"私達"に下った罰なんだ」私は携帯を放り投げて、すやすやと眠っているサトシの胸に顔を埋めて泣いた。最後の24時間、私はずっと泣いていようと思った。まるで私の大嫌いな恋愛小説だ。何故私が恋愛小説が嫌いかって、一番の理由は、大事な人が死ぬからだ。それを感動したとかなんとか抜かして喜んでるやつも大嫌いだ。とても悲しいから。悲しくてもう、立ち上がれなくなるなら。うじうじ悩むキャラクターを見るのが嫌だったのは、私がとても悩むからだ。好きなのかな嫌いなのかなうふんうふんとやるのが嫌いなのは、悩んでいる時間が辛すぎるからだ。私は世界中の女達と同じように、サトシにフラれ続けるんだ。永遠の苦しみの中に閉じ込められるんだ――と完全に闇落ちしたところで、私は気づいた。眠り病の患者の共通点。それは世界中のみんなが教えてくれていた。「どいつもこいつも喧嘩した後に発病してる!」これには絶対に意味がある。絶対だ。私は確信した。全力で情報を集めた私にだけ分かる最後の鍵だ。喧嘩をしたら仲直りだ。私が今考えている行動をとれば、確実にサトシは目を覚ます。それは決まっているんだ。
「サトシ、おい、愛してるぞ!」私はサトシにキスをした。
 6日間、眠らずにあらゆる手段を試した。私の唇はぱっさぱさだっただろう。けど、たぶん今、私は世界中の誰よりも愛に近づいた。
 サトシはゆっくりと目を開けて、目の下に深いクマのある、唇がぱっさぱさの、髪ぼさぼさの、目ぇ充血しまくりの肌サハラ砂漠の、涙の跡びっちりの私の顔を見て「おはよう」と言った。
 やっぱり私は恋愛小説なんか大嫌いだ。だって大事な人が死ぬから。
 こんなの恋愛小説だって? そんなことないね。
 だってサトシはキスで目が覚めたんだ。
 大事な人はキスで目覚めるって、決まってるんだ。
 これは、私の大好きなおとぎ話なんだよ。
 文句あるか。ないな。よし。


 了 70分(3591字)
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Author:伏田竜一
かわいい物とかっこいい物が好き。
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