FC2ブログ

となりあう影

 最近、町に怪獣が増えた。
 テレビに映り込む回数も増えたし、工事現場などで働いている姿を見る日もあった。
 怪獣は文句も言わず働き、疲れを知らず、死んでも誰も悲しまず、どこからか無限に湧いてきた。
 多部は怪獣が気に食わなかった。
 だがそれを大声で喚くほどには迷惑をこうむっていなかったので、もやもやした気持ちを抱えながら生活していた。
 ある日、多部が会社に向かうと、自分のデスクに怪獣が座っていた。
 モップの毛を人の形に集めてむりやり縫い付けたあと、顔らしき場所に巨大な目玉を二つくっつけただけのような怪獣だ。
 怪獣を二、三度押してみたがびくともしなかった。
 周囲で聞えよがしな嘲笑が起きた。
 多部の顔は真っ赤になった。
 怪獣を排除しようと頑張っていると、苦い顔の部長がやってきた。
 多部は怪獣の代わりにシュレッダー係になるという。
 その場で退職することに決めた。

 退職した足で酒を飲んだ。
 居酒屋で一人、さんざんくだを巻いたあと、鬱々とした気持ちで帰宅した。
 家のドアを開けると、見慣れた四畳半で怪獣が横になって酒を飲んでいた。
 怒鳴って追い払おうとしたが怪獣はどこ吹く風だった。
 会社で職を奪われ、生活までも怪獣に乗っ取られた。
 激しい怒りが湧いてきたが、職を追われた落ち込みもあり、すぐに無気力になった。
 怪獣と二人でテレビを見ながら酒を飲んだ。
 いつの間に寝たのか、朝目覚めると隣に怪獣も寝ていた。
 多部は、こんな生活を続けていたらダメになると考えた。
 どうやら怪獣も同じ意見だったらしく、二人でハローワークに向かった。

 ハローワークには職を求める怪獣が溢れていた。
 人間は少数で、誰もが肩身の狭い思いをしているようだった。
 人間は、おそらく怪獣に職を奪われてハローワークに来ており、怪獣の方が自分よりも上だという劣等感を抱えているようだった。
 多部は何もかも嫌になって外に出た。
 コンビニで酒を買い、近くの公園のベンチに腰を下ろした。
 公園には怪獣と人間の二人組が驚くほど多かった。
 多部はその光景を見て、こんな社会は破壊しなければならないと思った。
 怪獣に支配され、職も生活も奪われて、人間はみじめに公園で時間を潰している。
 こんな社会はもう終わらせるのだ。
 捨て身のテロだ。
 爆弾を作って爆死してやる。
 俺の命の火花が、次の世代の目を覚まさせるのだ!
 多部は携帯で爆弾の作り方を調べると、東急ハンズで材料を買い集め、一目散に帰宅し、10時間かけて爆弾を作り上げた。
 勤めていた会社に脅迫電話をかける為にコールすると、怪獣が出た。
 怪獣はふごふごふご、と言った。
 多部は電話を切り電車に乗って会社に向かった。
 道路を挟んで会社を正面に見て、いざ爆弾の起爆スイッチを押そうとしたところで、黒い影が三体会社に突入した。
 あっ、と思った時には目の前に白い光が満ち、爆発音と地鳴りがした。
 多部は炎上する会社を呆然と眺めていた。
 どうやらどこかの無職の怪獣が自爆テロを起こしたらしい。
 目を覚ますのは次世代の人間ではなく、次世代の怪獣なのかもしれないと思った。
 多部は自殺することにした。
 
 家に帰って鴨居に縄を垂らして首を吊ろうとした。
 すると今までずっと一緒だった怪獣が、多部の縄を奪い、自ら自殺した。
 多部は死すらも奪われた。
 もう何も考えられなかった。
 何もかも怪獣が代わりにやってしまう。
 多部は放心状態のまま、ふらりと外に出た。
 行く宛もなく、ただ歩き回った。
 そうして歩いているうちに、周囲にたくさんの人間が集まっていることに気づいた。
 不思議と怪獣はいなかった。
 人間たちは広い交差点に溢れ、周りを見渡し、お互いの姿を認めた。
 みんな暗い表情だった。
 まるで死に損なったかのような顔。
 気づいた。
 怪獣たちは人間の代わりに働き、人間の代わりに生活し、人間の代わりに職を失い、人間の代わりにテロを引き起こし、人間の代わりに絶滅したのだ。
 人間たちは町に戻って、死んだ怪獣を片付けた。
 どんなにつまらない人生でも、横取りされるよりはマシだと思った。


 了 60分(1619字)
関連記事

コメント

非公開コメント

フリーエリア

ブログランキング・にほんブログ村へ

プロフィール

伏田竜一

Author:伏田竜一
かわいい物とかっこいい物が好き。
創作を取り上げると死ぬ。
転んでも泣かない。

アルバム

アルバム2

検索フォーム

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: