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『セリフ力を超向上! 第2回オリジナルキャラクター会話祭り!』

テーマ「殺人鬼」

志向性「泣ける」

タイトル「一日の終りに阿波子が話した事」



 阿波子と付き合いはじめて3ヶ月が経った。
 彼女のミステリアスなところが好きで告白したのだが、最近ではそのチャームポイントが重荷になってきた。
 もっと自分の事を話してほしい。僕の考えを伝えるために阿波子を喫茶店に誘った。
 阿波子は、普段はあまり見せない笑顔で承諾してくれた。
 僕達は学校の帰り道に一軒だけある寂れた喫茶店に向かった。
 この店を訪れたことは無いけれど、時代に取り残されたようなこの店なら、学校の知り合いが来ることはないと思う。
 僕らは向かい合って座り、腰の曲がったマスターがオーダーを取りに来るまでの時間を潰す。
「真面目なあなたが寄り道、だなんて珍しい。ペストジェノベーゼ」
「今なんて言った?」
「そうだね。分からないよね」
「うん、聞こえなかった」
「あなたは真面目だ、と言った」
「ちがう、そのあと何か言ったろ」
「寄り道なんて珍しい、と言った。気にさわった? 真面目だと思われるのが嫌、ってこともない、よね」
「いやいや、全然気にしてないよ。真面目なのは、そう言われても仕方ないなって思ってる。知っての通り内向的だしさ。そうじゃなくて、寄り道のあとに何か英語みたいなこと言わなかった?」
「アンティパストチャバッタブルスケッタのこと?」
「そんな長くなかったと思うけど。もしかしてからかってる?」
「私はすごく真面目に話してる。信じて」
「うん……わかった」
「さっきはペストジェノベーゼって言った。スパゲッティ料理。美味しい」
「そうなんだ。何故そんな料理の名前を突然口走ったのかは甚だ疑問だけれど、そのなんたらジェノベーゼっていうのが阿波子の好きなものってことはわかったよ」
「好きなものはあなたよ」
 僕はどきりとした。
 阿波子の目は真剣だった。
 なんと返そうか迷っていると、彼女はテーブルの横に立ててあるメニューを開き、緑色のパスタを指さした。
 写真の下に書かれたパスタの名前は、ペストジェノベーゼだ。
「もしかしてここ、来たことある?」
「何回も何回も何回も、数えきれないくらい、死ぬほど」
「じゃあ、メニューに飽きちゃってたかな……先に言ってくれれば良かったのに」
「いい。美味しいし、あなたがいるから。ねえ、ひとつだけお願いしていい?」
「うん、僕ができることなら」
「"この店を出るまで私以外と話さないで"」
「えっ?」
 僕が驚いていると、ゆっくりとカウンターを出てきた白ひげのマスターがテーブルの横に立った。
 ペストジェノベーゼふたつ、と阿波子がうつむきがちに言う。
 マスターは小さくうなずき、手元の伝票にボールペンでオーダーを書く。
 それから、僕の目を見つめながら「わしは殺人鬼なんじゃ」と言う。
「おまえたちのようなコドモのニクをきりきざむのがだいすきなんじゃ。かわをはぐとこうふんするんじゃ。ほねをくだくおとはこのうえないよろこびじゃ。スパゲッティはしばらくかかるぞ」
 唖然とする僕を残して、マスターはゆっくりとカウンターの奥に戻った。
 マスターにもう一度同じことを言ってみて欲しい気がしたが、たった今阿波子からお願いされたことを思い出して我慢する。
 知らない大人が突然ありえないことを言った。殺人鬼? 普通じゃない。
 しかもその後で親切にスパゲッティーの完成が少し遅いということを教えてくれた。普通じゃない。
 気味が悪くて背筋がぞくぞくする。
「今の、聞いた? この店なんか変だ。出よう」
「いつも、すごく怖い。だから慣れちゃった」
「いつもって……」
 僕は阿波子が何度もこの店に来たことがあると言ったのを思い出した。
「いつもあんな調子なの? あれってギャグ?」
「ギャグじゃない。真剣。泣いちゃうくらい本気」
「だったら」
「ねえ、私のこと信じるって、さっき言ったでしょ」
 彼女は、すがるように、けれど決意の込められた目で僕を見ている。
 その迫力に圧倒された。
 朝から少し様子が違ったけれど、ここに至っては、いつも飄々としている阿波子とは別人のようだ。
 何か事情があるのかもしれないと思った。
 深呼吸して、椅子に深々と座り直す。
 心を落ち着ける。
「わけを話してよ。あの人が本当に殺人鬼なら噂になっていてもおかしくないし、ここに何回も通ってる阿波子だってただじゃ済まないだろ。警察の捜査からも逃げ続けられるはずがないし、阿波子のこと信じたいけど、やっぱおかしいよ」
「繰り返してるの」
「繰り返してるって、何を」
「ここに来るたびに私は殺されて、同じ時間を繰り返してるの。今日という一日を、ずっと」
 僕は静かにまぶたを伏せた。
「つまり、世に言うタイムリープを」
「うん」
「殺されて、巻き戻って」
「また朝起きて、あなたに誘われてここに来る」
「マスターが謎のカミングアウトをして」
「この話をする」
「……だからここのメニューも知ってたし、マスターがアレを言った時に取り乱さないように僕に口封じをした」
「そう。あってる。あの時あなたがマスターに何か質問したりすると殺される」
「そんなわけ、」
 ないだろ! と言いたかった。
 あるわけがなかった。
 そうだ。
 そんな夢みたいなことが起きるはずがないんだ。
 阿波子だってそれは理解しているはずだ――彼女が突然狂ってしまったのでない限りは。
 ミステリアスで不思議な言動をとる阿波子だが、それはいつも常識の範囲内だった。
 昨日の今日で、いきなり彼女がおかしくなるとは考えられない。
 だとしたら、僕は考えなければならない。

"彼女は何故こんなことをするのか"

 阿波子はすがるような目で僕を見ている。
 その目を見た時、脳裏に彼女のセリフが次々と蘇ってきた。

"私はすごく真面目に話してる。信じて"
 阿波子は最初から真剣で、真面目だった。
 だとしたらこの状況は、冗談やサプライズのようなものではないはずだ。
 その上で、彼女は言外にこんなルールを提示したんだ。
「私は嘘をつかない」と。ならば僕は彼女の言葉を信じよう。

"好きなものはあなたよ"
 彼女は僕に好きだと言ってくれたじゃないか。だとしたらこれは、僕に悪意があってやってるわけではないはずだ。
 脅かしたり、バカにしたりするのが目的ではない。

"何回も何回も何回も、数えきれないくらい、死ぬほど"
 彼女はこの店に何度も通った。常連と言ってもいいだろう。これは多分、阿波子とマスターが顔なじみだという事を示唆している。二人が結託しているのは間違いない。なら、二人で何をしようとしている?

 ヒントは阿波子のセリフにあるはずだ。
 これは阿波子が書いたシナリオなんだ。
 考えろ、思い出せ。
 阿波子は僕に何をさせたい?
 どうしてこんな面倒なことをしている?

"いつも、すごく怖い。だから慣れちゃった"
 稲妻のように思考が閃く。
 最後のピースが埋まる。
 わかった。
 彼女は、自分に恋人が出来るたびに、この店で試していたんだ。
 学校の帰り道に一軒しかない、知り合いが絶対に来ないこの喫茶店で。
 僕が誘わなければ、きっと彼女がここに連れてきたのだろう。誰かに誘われてもいいように、常にこの店に通い、マスターと打ち合わせする必要があったんだ。
 阿波子は、自分を本当に理解して、許容してくれる恋人を探しているに違いない。
 タイムリープとか、バカな事を言っても理解してくれる恋人を。
 途中で帰ってしまわない相棒を。
 わざわざ店のマスターと手を組んで、彼女らしい謎に満ちたやり方で。
 それなら僕は、乗ってやろう。
 最後まで彼女に付き合おう。
 これから何が起きるか分からないが、何が起きたって平気だ。
 ヒントはもう、阿波子がくれたんだから。
"この店を出るまで私以外と話さないで"
 謎が解けてみれば、それはちょっと恥ずかしくなるくらい、可愛らしい願い事だ。

「わかったよ、阿波子。全部わかった」
 僕は笑顔を滲ませながら言う。
「うん、良かった。あなたなら必ずわかってくれると思ってた」
 阿波子は嬉しそうに笑って言う。
「これから、どうすればいい?」
「楽しく話す。それからスパゲッティが来るから、美味しく食べる。照明が消えて私が殺される。それでおしまい」
「うん、わかった。じゃあまずは、阿波子のことを聞かせてよ。僕は君の話が聞きたくて、ここに誘ったんだから」
「じゃあ、今日は何を話そうかな」
 阿波子は嬉しそうに言った。
 マスターがのたのたと歩いてきてテーブルにパスタを乗せる。
 ペストジェノベーゼは変わった味がしてとても興味深い。
 僕と阿波子は時間を忘れて話し合う。
 いつもの彼女とはまるで別人のように表情豊かで、魅力的だった。
 店の外が暗くなり、店内にオレンジ色の照明が灯る。
 阿波子がスマートフォンを確認して言う。
「ごめんね、こんな遅くまで私の為に」
「かまわんよ」
「私って凄くバカでわがままなんだなって、最近わかったよ」
「そんなこと無いよ。素直で知的で可愛いんだって僕は再認識したよ」
 褒めすぎた。顔が熱くなった。阿波子は笑った。
「楽しかった。すごく。ほんとに。ありがとう」
「僕も」
「じゃあ、気をつけて帰って。今日のことは忘れて」
「たしかに、未来の僕らが今日のことを思い出したら、恥ずかしいかもだし。忘れるよ」
「私は、今のあなただけで、いいの」
 明日も話そうね、と阿波子は目を細めて言う。
 照明が落ちる。
 真っ暗な室内に激しい息遣いと足音が響く。
 ガラスが割れる音と固いものが床を転がる音。
 老人の獣のような叫び声。
 それから急に静かになる。
 僕は声を出さないように椅子の上で腕を組んで、人を驚かせるような物音にも我慢してふんぞり返っていたが、いつまで経っても照明がつかない。
「阿波子……おーい?」
 返事はなかった。
 静まり返った店内で、僕は全ての思考を放棄していた。
 朝日が窓から滑り込んできて、床を照らす。
 体中から血を流した阿波子と、ガラスが首に刺さっているマスターが倒れていた。
 そこで僕は、やっと全てを理解した。
 彼女は最後まで嘘を言わなかったのだと。
 だとしたら僕は、最初から全てを認められていたのだ。
 阿波子は、僕が彼女が演技をしていると推理することも知っていて、勝手に納得してしまうことも知っていたはずだ。
"彼女は何故こんなことをするのか"
 その答えは、やっぱり阿波子自身が口にしていた。
 彼女は、終わりのない時間の中で、僕と楽しく話す現在だけを、選び続けているんだ。



 了(4104字)



 最後まで読んでくれてありがとうございました!
 このブログの中で、一番小説らしくて面白い話が出来たかなと思います。
 文字数がどうしても削れなくて、多くなってしまったことをこの場を借りてお詫びします。

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コメント

No title

はいでぃほー。

4000字…私のよりながーい!お疲れ様です!
えっと、すごく拙い言葉になったりちゃんと反芻できてないところはあると思いますけど、感想を失礼します。

全部読み終えた時に思ったことは、阿波子ちゃんの"今のあなただけで、いいの"って部分がこのお話の全てで、"今"の主人公以外には興味がなかったのかな…っていうことでした。
これってある意味、悲恋ですよね?
阿波子ちゃんは次の"今"に行ってしまって、主人公は置き去りにされてしまった…だからある意味、振られたカタチになってしまったのかなぁ。と。
それは主人公にとってはすごく悲しいことだし「泣ける」けど、彼女のことを理解するって目的は果たせたんですよね。
だからこそ、認められてたことにも気付けてしまった。彼女はもういないけど…

"この店を出るまで私以外と話さないで"
主人公が殺されない為のこの台詞なんですけど、阿波子ちゃんは最後の最後も見越して…って解釈しました。主人公に暗闇の中でも声を出させないようにしたとか。
それが彼女の優しさ故だったらいいな。ちょっと、このお話に救いを求めてしまいました。

このタイムリープって、阿波子ちゃんが止めようと思えば止められるんでしょうか。それこそ最初に誘いを断るとかで。
最後には痛い思いをするだろうに、それでも繰り返す彼女の愛の重みを感じます。笑
それから主人公が言う通りにすると言った後の阿波子ちゃんは本当に楽しそうで、女の子らしさに溢れてました!

初々しい恋人同士の甘酸っぱさ(?)から一変、血みどろスプラッターで幕を下ろしたのが「殺人鬼!」って感じで恐ろしかったです。
楽しませていただきました!

ではでは、また参加させていただく暁にはよろしくお願いします!!

Re: No title

 hanacoさん、こんばんは。

 お疲れ様です!
 すみません、文字数かなりオーバーしてしまいました。ぼかぁまとめる力が少し足りないようです。
 hanacoさんが思ったように書いて頂けたら、それが僕にとって嬉しいことです。

 感想ありがとうございます!
 あまりコメントで設定に触れてしまうとなんだか言い訳っぽくなって恥ずかしいですが、「阿波子はタイムリープから抜け出せない」という設定で書いていました。
 なので僕的には阿波子は「今しかないから今で我慢する」くらいの気持ちだったのかなと思っていたんです。ただその気持ちを阿波子自身に説明させてしまうと「演技なのか本当なのか」のさじ加減がタイムリープ側に引っ張られすぎると思って書かなかったんです。でも、hanacoさんにコメント頂いて、書けば良かったんだなあと正解が見えた気がしました。阿波子が自分のタイムリープを明かした段階で「自分は抜け出せない」という情報をセリフに含めるべきでした。それだけで説得力がだいぶマシになるかなと。
 書き始めた当初は、阿波子が本当にタイムリープしてるのか、ただの演技なのかを決めずに書いていて、そのなんだかよく分からない感じを楽しんで貰えたらいいなあと思っていたんですが、やっぱり説明不足ではただの意味不明になってしまうんだなあと再認識した感じです。僕は「書きすぎるとダサい」と思っていて(そういう謎の価値観があって)、そのせいで度々説明を省略することがあるのですが、改めようと思います。伝わらなければ意味がないです。
 ……っていう反省をコメントの返信でやってしまって申し訳ないです!w
 でも学んだことですので、やっぱり書いておきます。

"今のあなただけで、いいの"という言葉を受けた側の主人公としては、やはり「"今"の僕以外には興味がなかったのかな」、と思うかもしれないですね。阿波子のいなくなった世界で、そう思う時が必ず来ると思います。だとすると悲恋かもしれません。「次の僕」に取られた、と思うかもしれません。そう考えると"振られた"というのは面白いですね。そういう物語にしたらもっと面白かったかもしれないです。『タイムリープしてる彼女にフラれた話』って書くとコメディーっぽく出来て良い感じですね……!
主人公は最後の会話で「阿波子が話した自分の事」を聞いて、多分ある程度納得したと思います。けれどやっぱり置いてきぼりにされたし、それでも彼女は「僕」という存在と何回も何回も死ぬほどたくさん、楽しく話してるはずなので、やっぱり嬉しいかもしれないですし、ハッピーなのかバッドなのか、成功なのか失敗なのかは読んでくれた方の解釈に任せようと思います……!

"主人公に暗闇の中でも声を出させないようにしたとか"
ありがとうございます。ここはまさにそういう意図で書いています。更に言うと、二人の時間を邪魔されたくないという意志でもある気がします。他の人にスマホで連絡をとるとか、そういうのも、喫茶店の中ではやらない方がいいんだろうなあという暗示でもあるような気がします。
普通のタイムリープは語り部がリープする話が多いのですが、この話はタイムリープに置いてきぼりにされている話しなので、結局主人公があれこれ推測したり想像したりするしかなくて、そこが面白いところだと思うのですが、その分説明が上手く出来ていないとすぐ意味不明になってしまうし、どうしてもオチが曖昧で、ふわっとしてしまうので、もっと気をつけて書かないといけないなあと思いました。

タイムリープを止められない(という設定は小説の中に無いのですが)阿波子にとって「これが常に最良」というルートが多分出来ていて、それをずっとなぞっているんじゃないかなあと思うのですよ。たぶん試行錯誤して抜け出そうとして、主人公とも会ったり会わなかったり、そもそも学校に行かなかったり、いっそ喫茶店に放火したり、思い切って悪いことをして逮捕されてみたり、あらゆることを試したあとでこれが一番良いルートだなあって思って、繰り返してるんじゃないかと思っています。そうなっていくと多分、普通の人間の思考とはどんどん違ってきて、生活が自動化されたり、意識レベルがどんどん下がってきて、夢を見てるような感じになって、肉体は死から開放されているので、最後は宇宙になるんじゃないでしょうか。(真顔)
阿波子の愛の重みを感じて頂けて、よかったです……。僕が一番書きたかったのは多分、そこです。

たくさんのことを気づかせてくれて、ありがとうございます。
文字にすることで、改めて自分が何をしたかったのかなどが理解できて、大変有意義でございました……!
またぜひ、やりましょう。

コメントありがとうございました!
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Author:伏田竜一
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創作を取り上げると死ぬ。
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