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無意味の醍醐味

全然まったく意味がない文を書いてみました。
追記からどうぞよろしく。
 渋谷駅南口から徒歩10分。
 きらびやかな百貨店の横の路地を奥に進むと個人が経営する小さなカフェ兼レストランが密集したオシャレ地帯が現れる。夜ともなると薄い橙色の電灯を灯して、客の笑顔を路地裏に浮かび上がらせる。白くて清潔なテーブルクロス……銀の水差し……オールバックのウェイター……フルートの幽玄な音色……かと思うとログハウス調の狭い木造のパブではサッカー中継を見て叫んでいる集団があり、ジョッキをかかげたスキンヘッドの男が玄関から飛び出してきて往来でくるりと回ったと思うと再び店に飛び込んで行く……歓声……店の奥のテレビに映った髭面の選手が両手を広げてスタンドに向かって吠えた時、パブの人間も一緒に遠吠えをはじめる――。真っ赤な照明の無機質な店の奥には青いネオン管で判別の難しい文字が書いてある。コンクリート打ちっぱなしの生活感の無い空間に巨大な青い貝殻のような椅子が二脚置いてある店がある。店なのかどうかすらも怪しいその店。一体何屋なのか、全く分からない。しばらく見ていると、驚くほどピンク色の髪をした女性が階段を静かに下りてくる。その顔面にきらめく尋常じゃない数のピアスに恐れをなして先に進むと、小さな紫色の看板にひらがなの屋号が書かれた古めかしい喫茶店にサラリーマンが二人と気難しそうなマスターの不機嫌そうな空間がある。
 更に奥に進むと、次第に電灯すら無くなる。
 灰色の壁に囲まれた狭い狭い道になる。
 ここまで来るともう人通りも無く、道なのかすら怪しい。
 どんどん真っ暗になる路地裏の突き当りに、闇に浮かぶようにして木製のドアが見えてくる。
 看板も無ければ表札も無い。
 純然たるドアだ。
 都市伝説のようなドアだ。
 都会の蜃気楼のようなドアだ。
 勇気を出してドアノブをつかみ、決意を持ってドアを開いた時、まず最初に目にうつるのは、止まり木のサンタクロースだ。
 彼の名前は斉藤という。
 偽名だと思う。
「いらっしゃいませ」
 バーテンが呟いた。
 僕はサンタクロースの隣に腰を下ろして、
「この店で一番上品な飲み物をください」と言う。
 水が出てくる。
 隣でウイスキーを飲んでいるサンタクロースが白髭の奥でもごもご口を動かす。
 何か言うのかと思って待っていると、サンタクロースは結局何も言わずにウイスキーをちびりと飲む。
 僕は中空をぼんやりと見つめながら水に口をつける。
 バーテンはコップを磨いている。
 店内にかかっているジャズのスタンダードの音量はちょうどいい。
 サンタクロースがコップを置いた手で脇腹をかく。それから赤い上着の端を直してテーブルに手を乗せる。
「……ふすたさん」とサンタクロースがどこの訛りかよく分からないイントネーションで僕の名を呼ぶ。
「斎藤さん」と僕が呼び返すとサンタクロースはちょっと悲しそうな目をする。
 バーテンは奥に入っていく。
「猫が逃げんだ」
 とサンタクロースは言う。
 僕はもちろんグレンフィディックをオーダーする。ダブルで。
 奥から出てきたバーテンは目を伏せたまま酒を作る……。
「どんなふうに」
 聞くと、サンタクロースは人差し指と中指を立て、テーブルに目潰しを食らわせるようにして垂直に立てる。
 それから人差し指と中指を交互に動かす。まるで人が歩いているように。その人は最初はゆっくり歩いているが途中から物凄いスピードで移動を始めて最後には爆発していなくなってしまう。サンタクロースは酒を飲み、僕も酒を飲む。
 その頃、北半球には冬が来ている。
 バーテンはいつの間にかカウンターの端の席でビールを抱えていた。
 斉藤がどうしていつもサンタクロースの格好をしているのか、誰も知らないし、聞こうともしない。それでも斉藤は毎日サンタクロースの姿で、背中を丸めてこの店で酒を飲んでいる。
 共有できる話題は無い。けれど時を共有することはできる。
 それは全人類に平等に流れている。
「追いかけると逃げるんだよ、目が光るしね、猫は」
 僕が言うと、サンタクロースははっとしたように目を見開いて、ひとつうなずいた。
 それから脇の椅子に乗せてあった白い袋から、革のベルトを取り出してテーブルの上に乗せた。
 どう見てもただの革のベルトだった。多少使用感はあるが、そこらで売っているものに見えた。
 サンタクロースはベルトのバックルの隙間に指を入れてかちゃかちゃと金属音を鳴らしたり、手の中でぐるぐるに丸めたりしたあと、袋の中に戻す。
 バーテンは自分が使ったグラスを洗い、磨き始める。
 僕はコミュニティーについて考えている。
 それから本物のサンタのことを。
 そしてさっきのスキンヘッドの男のことを――彼は道に飛び出してくるっと回ったが、あれは一体なんだったのか。
「ふすたさん」
 サンタクロースは言う。
「肘の皮はつねっても痛くない」
 僕はうなずいた。
「でも腕の皮はつねると痛い。そうだろ」
 僕はうなずいた。
「どこからが肘なんだ?」
 僕は、そのときほど自分の肘の皮をつねってみたかったことはない。





 最後まで読んでくれてありがとうございました。
 この文章は全部、無意味なフィクションです。
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コメント

はいでぃほー。

この時期のサンタさん、一周回って違和感なくなら…なかったです。笑

言われてみれば肘の境界線ってどこだ?って思ってつねってみました。けっこー狭い範囲ですね。
皮が余ってるから神経をつままないで済むって、猫の皮みたい!

あと伏田さんって、もしかして「ふした」さんでした?
私ずっと「ふしだ」さんって呼んでました!!笑 やばー…

あっ、どーでもいいかもしれないですけど、私が送ったメールの最後に「受け取りましたよーって報告」って書いてたと思いますが、あれ「メールを受け取りましたよー」っ意味なので!!笑
主語省略したせいで内容的にややこしくなったかなぁと思ってたんで、念の為…

ではでは、また!

No title

 hanacoさん、はいでぃほー!

 違和感あるんかーい!! ありますよねw
 斎藤さんは変な人なので、違和感の塊で正しいのだと思います。

 実際にやってみると分かりますよね、肘。
 僕もやってみたんですが、痛くないとこはほんとにぶよぶよのところ(表現が悪い)だけでした。
 皮に神経が無いっていうのも不思議な話しですよね……腕の毛とかを引っ張ると痛いのに、腕の毛が生えているあたりをつねってもそれほど痛くなくて、どうなってるんだろうなあと、めちゃめちゃどうでもいいことを時々考えていたりします。
 猫ちゃんの首の皮ですね。あの辺、もにょもにょしていて面白いので、触りたくなりますw

「ふしだ」さんです! 今からふしださんになりました!
 正直どっちでも大丈夫ですし、なんなら「ふせた」でも大丈夫ですし、「ふくだ」でもオッケーなんです。こだわりゼロです。でも、今からふしだになりました。
 ふしだ、は、不死だ! にも繋がっていて言葉遊び的にも面白いです。

 全然どうでもよく無いですよ……!
 ご連絡ありがとうございます。メールの受け取り報告で良かったです。伏田なりすまし商法でhanacoさんに違法な物品を送りつける輩がいないとも限らないですからね……!(心配性)
 でもややこしさはあんまりなかったですよ。とてもわかりやすくて、嬉しいメールでした。
 ちなみに本ですが、本日レターパックで発送させていただきましたのでよろしく!

 コメントありがとうございます!
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伏田竜一

Author:伏田竜一
かわいい物とかっこいい物が好き。
創作を取り上げると死ぬ。
転んでも泣かない。

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