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お通し 四皿目

「今日は難しいことは抜きにして、楽しいことをしたいと思っています」
「それは俺のセリフです」
 難しい事を言うのは先輩の方だ。
 ……難しく事を考えてしまうのは俺の方だけど。
 先輩は俺のそういうところを改善させようとして言ったのだろうかと思い当たって、今日は何も考えずに過ごそうとこっそり気持ちを引き締めた――じゃなくて気を緩めた俺です。
 待ち合わせの公園から夜道をゆっくり歩いてきてたどり着いた神社の前は、それなりに賑わっている。浴衣を着た男女が仲良く腕を組んで通り過ぎ、でかい声で何か叫んでいる中学生っぽい男子の集団が走り過ぎ、小さな子供の手を引いたおじいちゃんがゆっくりと提灯の赤色に染まって行く。
「なんだか懐かしい感じがしますね、夏祭り」
「ふうん……ということは、去年は来なかったのね」
「どうだったかな。もしかしたら来たかもしれません」
 妹を連れて? それとも誰か友達でも誘って来ただろうか。
 思い出はぼんやりと霞んでいていつまでも像を結ばなかった。
「はは、なんだか全然覚えてないみたいだ。やっぱり来なかったのかもしれない」
「そう。どちらでも一向に構わないわ。あなたは今ここにいる。私と一緒にね」
 そんなの分かってますよ、と言うほど俺もバカでは無かった。これは先輩なりの気遣いに違いないからだ。俺のさもしい青春をバカにするつもりが無いという意思表示だろう。有難く受け取っておく。
「ところで先輩、どうでもいいことを聞いてもいいですか?」
「不思議な問いね。言ってごらんなさい」
「風鈴どこにやったんですか?」
 待ち合わせの時は確かに持っていたのだが、いつの間にか鈴の音なんか聞こえなくなっていた。
 先輩はバッグの類も持っていないし、どこにやったのか不思議に思っていた俺です。
「え、風鈴? 捨てたわ」
「何故!?」
 驚いて振り返ると先輩は真顔である。
「いらないからに決まっているじゃない。もしかしてあなた、蜜柑の皮やペットボトルの空容器を大事に取っておく人?」
 いやそんな変人には一度も会ったことがない。
 というかそれは間違いなくゴミだから捨てる。
「風鈴って、割れたりするまではゴミじゃないと思いますけど!?」
「壊れていなくてもゴミになるものってたくさんあるのよ。例えば結婚指輪とか、離婚したらゴミでしょう?」
「例えがいちいち極端ですね!?」
 結婚したことないからわからないですけどね! ゴミなんですかねそれは!
「禁煙した人にとって煙草はゴミでしょう?」
「むっ……まあそれはそうかもしれませんが」
「核兵器はゴミでしょう?」
「くっ……いきなり地球規模の正論を持ち出したぞこの人……」
 俺が怯んだのが面白かったのか、先輩は真っ赤な提灯の下でくすりと笑った。
「あの風鈴はちゃんと役目を果たして、風鈴の抜け殻になったのよ。私が聞きたかった音も、あなたに聞かせたかった音も、もう二度と鳴らせない。そんな寂しいものを取っておく勇気なんて私には無いわ」
 先輩は呆然としている俺の前を歩き始める。
「さあ行くわよ後輩。ぼうっと立っているつもりなら、あなたも捨てていくけど」
「それシャレになってないんですけど」
 先輩の楽しそうな笑い声が、夜店の喧騒に溶けていく。
 前を静かに歩いていく彼女の背中を追いながら、俺はほんの少し不満である。
 捨てるくらいなら俺にくれればよかったのに。
 あの風鈴の音を聞くたびに、何度でもこの夏を思い出すかもしれないのに。
 今度は彼女に自分の考えを伝えよう。
 あなたにとってゴミでも、俺には宝物かもしれませんよ、って。

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コメント

はいでぃほー。
(思い出したように)

最近はお通しシリーズですね。
そんな寂しいものを取っておく勇気なんてない…って、なんだかいい言葉ですね。
捨てる勇気がないんじゃなくて、手元に置いておく勇気がないっていうのが響きました。作風にも合ってます。
私もそういうセンスある台詞回しをしたいです。

ではでは、また!

Re: タイトルなし

hanacoさん、はいでぃほー!

言われてみると何故だかお通しシリーズです。
お通しばっかり出てきてなかなかお酒や料理が来なくて祭りが始まらない感じがしています。
褒めて頂いて、ありがたいです。元気が出てきました。具体的に言うと、
『伏田の元気が10上がった!』という感じです。
コメント頂いた後、なるほどそういう読み方もあるのかと、感受性・解釈の多様さに思いを馳せたり致しました。いいなと思って頂いた文があるというだけで、すごく嬉しいです。
作風に合っているというのは、ほとんど最上の褒め言葉じゃないですか。テンションが15上がりました。

hanacoさんのキャラクター達のセリフは自然で、感情表現に優れていると思います。僕は変な事を書くのがすごく好きなので得意なのですが「ちょっと恥ずかしい」とか「落ち込んでる」とか、普通のセリフが書けないのです。
自分のキャラのセリフを見直してみると、自虐的になるわけではないですが、子供っぽいなあと思って時々ゾッとします。
今度一緒に、
『セリフ力をめっちゃ鍛えろ! 第1回チキチキ オリジナルキャラクターおもしろセリフ回し大会』(子供っぽい)
でもやってみますか?

コメントありがとうございました!

No title

このお通しシリーズの出だしを読んだ時、広田先輩と弘前君の会話かと一瞬思いましたけどね。笑
広田先輩も不思議な物腰の女性ですもんね。

アニキが先導してくれるならやりますよ!!おもしろセリフ回し大会。
ところでチキチキってなんですの?(無邪気)

ではでは、たびたび失礼しました。

Re: No title

hanacoさんこんにちは。

あら、気がついておられましたか。
ぐーニバル本編ではないぐーニバル日常編みたいなノリで書いてみておるのです。
ぐーニバル自体の設定がまだあやふやなので、それを自分の中で補完する役割もあります。
お通しを書くことによって本編を書くモチベーションを高めているのかもなあという気もしております。
広田先輩はわりとキャラが濃いので、わかりやすいかもしれませんねw

おもしろセリフ回し大会、やりましょう。
とりあえず次の記事で叩き台の企画を作りますので、後からやりやすいようにカスタマイズしていきましょう。
チキチキってなんなんでしょうね……? 聞かれると絶句しますね、チキチキ……。
ダウンタウンのガキの使いやあらへんででよく使われているので、僕も普通に使っていたのですが、実際なんなのか全くわからない言葉ですw 

コメントありがとうございました!
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Author:伏田竜一
かわいい物とかっこいい物が好き。
創作を取り上げると死ぬ。
転んでも泣かない。

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