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お通し三皿目

「"自分をがっかりさせることは避けねばならない!"らしいよ、兄」
 妹のマツリがそんなことを述べた。
 広げているのは女性ファッション誌で、どうやらコラムかなにかを読み上げたらしい。
 突然そんなことを言われても俺としてはよく分からなかったので、怠惰を絵に描いたような格好でソファに寝そべっているヤツをチラッと見るにとどめて返事はよした。
 口を出すと余計に何か説教めいたことを言ってきそうな気配がしたのだ。
「聞いているの、ねえ聞いているの兄」
 追撃の声をスルウして俺は一心不乱にスクワットをしながらバラエティー番組を見ている。
 太腿の辺りが疲れてきて甘ったるいナタデココになってしまったような感じがある。乳酸というのは恐ろしい……。
「こらぁ! 人の話を聞けこらぁ! スクワットバカ!」
 罵声と共にクッションが飛んで来て背中に当たった。流石に苛立った俺ではあるが、俺はヤツより三歳も多く生きた賢者であるから、寛大な心で許してやることにしてスクワットを続ける。我ながら高潔である。
「おい! あの綺麗な女の人とデートしたから調子こいてんだろうてめえ! 先輩ー好きですう……お、お、おで、あ、あなたが、あな、あなたが、好きですう……キスしたいですう、ぶひいぶひい……ってキモいんじゃボケ!」
 無視していたら余計にエキサイトしてボルテージ上げていた。誰の真似だかわからない気持ち悪いモノマネまで交えて煽りまくってくる。マツリの中の俺はあんなに気持ち悪いんだろうかと思うとゾッとしたが、流石にそれは被害者妄想の域にあると思ったので傷つくのもほどほどにして制裁することにした。
 俺はヤツの近くまでずかずか歩いていくと、背中側から両脇の下に手を入れた。
「う、うわあああああああひゃあああああああああああああ!!!!」
 マツリが抗議的な奇声を上げているが俺は行動をやめない。
 子供に高い高いするように両脇を持って天高く掲げた後ぐるぐる回る。
 すると遠心力でマツリの足が地面と水平近くまで振り上げられ空を飛んでいるような感じになる。
「うわあああああああああ人殺しーーーーーーーー!!!!」
 タケコプターのようになって怒っているマツリはとてもおもしろい。
 すぐに疲れてきたのでソファーの上にやつを捨てる。ボンっと尻で弾んで顔からソファーに倒れ込んだ妹を見て俺は満足した。正義は勝つのだ。
「自分にがっかりしないためにはな、日々の鍛錬が必要なんだぜ」
 倒れ伏した妹の背中にそんな言葉をかけて、俺はスクワットを続けた。
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