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ゴールデンなんとかは寂しそうにしている

 朝目覚めるとゴールデンなんとかがきらめいていた。
 俺はさすがにため息をついた。
「……おめえさん、まだおらっしゃったの?」
「おはようございます田中さん! 今日もあなたに素敵な一日が訪れますように!」
 朝っぱらから元気な明るい男の声でヤツは言う。
 俺は眠い目をこすりながら、うんうんと頷いて聞き流した。
「今日は何をなさる予定ですか!? 昨日は一日中ゲームしてましたから、今日はお出かけなんていかがですか!?」
「しねえ」
「えっ……?」
「でかけねえ」
「そ、そんな……」
 ゴールデンなんとかは絶望した声で暗く言った。光自体もしゅんと弱くなってしまった。なんてわかりやすいヤツなんだ。
「聞いて驚け。今日は13時からAbemaTVでダリフラの一挙放送なんだよ! ダリフラ好きがこれを見ずしてどうすんだって!」
「そ、そんなの、いつかDVDになってからでもいいじゃないですか……?」
「そりゃいいけど、いつか見るなら今見てもいいだろ」
「ええ……? 良いですけど……ええ……?」
 ゴールデンなんとかは混乱しているようだ。
 まあそんじょそこらの成人男性と俺を比べたらそうなるのも無理はないかもしれない。
 何しろ俺は、オタクだからな! へっ、かっこいいぜ……! 極めてる感じするぜ! ファンレターどんどん来いだぜ! こんなに晴れた休日でも家に引きこもって一生懸命アニメを見て物語の勉強に精を出す俺の真摯な態度に日本中の女子が熱狂してしまうんだぜ!
「アニメですかあ……いいんですけどね別にぃ……」
「なんでおめえさんがいじけてんだよ。ただここに居るだけなんだろ」
「いやあ、なんというか僕が居る間は楽しんで欲しいんですよ。いつもと違うことしようとかですね、イベントに参加しようとかですね、そういう楽しみ方をして欲しいなって思ってたんですよ。僕も楽しくなる光を発して協力したいんです」
 俺は腕を組んで少し考える。
「……いつもと違うこと?」
「旅行に行くとか! 帰郷する人も結構いますよ! オフ会とかもありますし! あ、そうだアニメが好きならアニメのイベントに出かけるのはどうですか!? 海に山に川にイベント! お友達とちょっとオシャレな街を散策してみるとか、選択肢は無限です!」
 選択肢は無限ねえ。
 もちろんそういう考えも理解できるけどな。
 それが作られた無限だってことを理解してれば問題ないんだけどな。
 でかいマーケットに煽られて不安や焦燥を感じたり、自由を勘違いしたりするやつが現れなければ、問題ないんだけどな。
 格差が浮き彫りになったり、金を使わなかった人間をひねくれ者だと考えたり、他者に対して否定的にならない自由だっていうなら、俺は認めるけれどな。
 この自由を作ったやつが、自分でそれを煽ってるんだってことに気づいているならいいんだけどな……。
「田中さんなんかぶつぶつ言ってません!?」
 すっかりテンションが上ってしまったゴールデンなんとかをほうっておいて、俺はキッチンの換気扇をつける。
 ガスコンロでアメリカンスピリットに火をつけて胸いっぱいに煙を吸い込んでぐるぐる回っている羽に煙を吐いた。命が削れる感じがして良かった。時として人は"自分は刻一刻として死んでいっている"ということを実感しなければならないものだ。
「提案してくれてありがとな。でも俺はアニメが見てえんだよ。俺は出たい時に家を出るし、出たくねえ時には出ねえ。たとえ時間があっても無くてもそれは同じだよな」
「……ちぇっ、強情っぱりめ」
 やれやれ……よくわからないものと会話するってのも、なかなか楽じゃない。

 ●

 宣言通りアニメを見た。
 ダーリン・イン・ザ・フランキス。素晴らしいアニメだ。作画も良いしシナリオもまあまあだ。何よりゼロツーのメイクが凄くいい。目尻に赤を入れると東洋のイメージが強くなるが、その他の色使いのバランスが巧妙で現代風の美少女に仕上がっている。目つきと口が悪いのもいいし生い立ちも特別感があっていい。ガイナックスから引き継がれたセカイ系の文脈は今でも十分に人の心に響くはずだ。大事な一人と世界を天秤にかけた時、どちらを取るのが正しいのかという問いに答えはない。しかしアニメの中では大体のテンプレートがある。一人を救うことが世界を救うことに繋がる。これは一見ご都合主義に見えるが、よく考えてみれば、一人も救えない奴が世界を救うことができるとは思えないし、目の前の一人というのは、すなわち世界そのものだという考え方もある。
「ほんとーにアニメ見るんですね……」
 と呟いてゴールデンなんとかは呆れたように俺の横で淡く光っていた。
 続いてBEATLESS。原作のファンだがアニメは俺にとってイマイチの作品。だが一応見ている。「未来をデザインする」とか「アナログハック」とか「レッドボックス」とか、優れたSF的概念を学ぶことができる。愛ってなんだ? という部分が一番とっつきやすいテーマかもしれない。人の形をした超高度AIの振る舞いはほとんど人と同じだが、それはモノでしかない。人の意識ってなんだろう? どこからが人でどこからがモノなんだろう? 人の形をして人の考えをしたらそれは人だろうか、それともモノだろうか。これは手塚治虫さんもやっていた古典的なテーマだけれど、だからこそ深い。俺ごときではとても答えは出せない。ただ、手がかりが一つ思い浮かんでいて、女児に多い傾向なのだが、ぬいぐるみの熊を叩いたりすると「そんなことしたら熊が痛がるでしょ」などと言って撫でたりすることがある。それには心理学的な根拠が何かあった気がするが、自己の投影だったか感情移入みたいなことだったが忘れたが、少なくとも無生物を人間扱いすることがあるということだ。つまり、人間だろうが非人間だろうが、気にしないことはできるということ。そして、だからこそ、"分かりあえない"という事態が発生することもあるということ。
「アニメ見て、そんなに考え込むことありますか?」
「俺はオタクで学ぶ意欲が凄まじくて女子からファンレターが来ても仕方ないよな」
「えっと全然意味わかんないです」
「すまん。アニメに集中し過ぎて日本語を忘れた」
「たぶん田中さんはモテないと思います」
「ああー、そうだな。モテるって言葉は確かによくないな。定義し直そう。俺は別に全ての女子や男子にモテたいわけじゃない。当たり前だけど、俺は俺が好きな人達にモテればそれでいい。二三人、俺をちゃんと好きな奴がいたらそれは俺にとってモテる、ってことなんだ」
「あらぁ、思ったより控えめですねえ。ハーレムとか望んでるのかと思ってました」
「一夫多妻制も生物的には否定しないけど、俺の趣味じゃないな」
「田中さんの趣味ってどんなんですか?」
「世界なんか目もくれずに一人を救うこと」
「……まあ言いたいことは色々ありますが、少なくとも家にこもってちゃ大事な一人もできないですよ?」
 俺はどきりとした。
 確かにその点はゴールデンなんとかの言うとおりだ。
 家にばかり居たら将来俺のお嫁さんになる人に出会わないじゃないか!
「やあおめえさん! なんでそれを早く言わないんだね!」
「なんですかその口調!」
「俺、ちょっと走ってくる!」
「もう23時ですよ!?」
「俺は出たい時に家を出る。時間があるとか無いとか、朝とか夜とか、関係ないね」
「頑固者!」

 そして俺はランニング用の服に着替え家を出た。
 外は真っ暗だったが、どこか夢見るような黒だった。
 夜に走る人は、きっとみんな良い夜と悪い夜を知っている。
 川沿いの土手を走った。
 今日はとても良い夜。月は白く輝いていて綺麗。風は涼しくて気持ちがいい。空気が澄んでいて遠くのビルの赤い光がはっきりと見えた。
 走ると何も考えなくて済む、という人がいるが、俺は逆で、たくさんのことを考えてしまう。まるで寝る前みたいに、意味のない考えが浮かんでは消えていく。
 そうして今日という一日もまた過ぎていく。
 一時間ぴったり走って、家に帰る頃には日付が変わっていた。
 さあ、今日は何をしようか。
 俺は俺が選んだ俺のやりたいことを俺がやりたいようにやることにしよう。

 家に帰ると、ゴールデンなんとかが待ちくたびれたようにだらだら光っていた。
「明日こそはどこか行きましょうね」
「考えとくよ」

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コメント

No title

こんばんは。

続きましたね!
それで、ゴールデンはなんとかのままなのですね。永遠のなんとか。

"自分は刻一刻として死んでいっている"って、言い得て妙ですね。有名な言葉だったら恥ずかしいのですが、伏田さんが考えたとしたらなんて思慮深い…
今のこの瞬間にも、私は死んでいってるのかな。
…そんなことないと思うんですけどねー。(ぱっぱらぱーか)
それから、日々、死にたくないなんて思ってる喫煙者は矛盾してることになりますよね。

田中さんはSFがお好きですね!笑
大事な1人か世界かですが、大事な人のいない世界なんていらないって格言もあるぐらいですし、ねぇ。
ハンタのクラピカに言わせたら「答えは沈黙」なんでしょうか。笑
そうそう、このお話を読んで最近思ったことを思い出したんですが、ぬいぐるみって生き物じゃない。ってわかってる筈なのに、ゴミ捨て場なんかで見かけると切ない気持ちになるのが不思議です。
無意識の内に擬人化(この表現は適切じゃないかも?)してるってことですね。ある意味、偽善的ともいいますか。
きっと私の場合、高度な人工知能を相手にしたら生き物みたいに感じてしまうタイプなのかもしれないです。

…私も考え込んでしまいました!!

ではでは、また。
田中さんに素敵な人が現れますように。笑

Re: No title

 hanacoさん、こんばんは。

 ゴールデンウィークが終わって、ゴールデンなんとかが帰って感動のフィナーレを迎えて終わりにしたいですね! 
 そうです、永遠のなんとか。
 永遠のなんとか、の全体的なあやふや感が凄い良いですw

 同じような意味の言葉は探したら割とあるかもしれませんが、褒めていただいたので僕のオリジナルということでお願いしますw
 この瞬間にも死んでいってるのですよ……一秒ごとに細胞が死んで代謝されて二週間くらいで全ての細胞が入れ替わって新しい自分になって、また少しずつ死んでいるらしいです。……ほんと、そんなことないよなあって感じですよねw 体感としてそれが正しいと思います。
 矛盾しておりますね。僕はそういう矛盾は、人間らしく、あってもいいと思うのですが、その矛盾が行き過ぎるとよくないことが起きてしまうので、いろいろ考えてしまうところでもあります。

 田中さんはSFが好きなのですよ。あとアニメとゲームですw 変態という設定が生かされていないのでどこかでエピソードが入れられればなあと企んでおります。
 そのハンタの話ってあれですか、ハンター試験の時にレオリオがキレたやつ!(違ったらすみません!)
 そうですその気持ちです。擬人化で正しいと思います。一個の感情がある人間みたいに見ている気がします。それは人型に近ければ近いほど強く働くはずです。何故だかはわかりませんが、人間にはそういう心の動きが備わっているみたいです。逆に神戸牛のステーキが喋ったり踊ったりすると気持ち悪く感じます。(例えが変てこでほんとに申し訳ないです)
 生き物みたいに感じるっていうのは、きっとAIでもすんなり受け入れることができるってことですよね。ぼかぁとてもいいと思います。

"田中さんに素敵な人が現れますように"
 この発想は無かったです……!
 パクってよろしいでしょうか……!

 コメントありがとうございました。
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伏田竜一

Author:伏田竜一
かわいい物とかっこいい物が好き。
創作を取り上げると死ぬ。
転んでも泣かない。

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