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佰の問い掛け

質問に答えて、自分をもっと知ってもらおう! というやつをやってみました。
興味のお有りの方は、追記からどうぞ。

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企画1

『セリフ力をめっちゃ鍛えろ! 第1回チキチキ オリジナルキャラクターおもしろセリフ回し大会』
の企画を考えていきます。
追記からどうぞよろしく。

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お通し 四皿目

「今日は難しいことは抜きにして、楽しいことをしたいと思っています」
「それは俺のセリフです」
 難しい事を言うのは先輩の方だ。
 ……難しく事を考えてしまうのは俺の方だけど。
 先輩は俺のそういうところを改善させようとして言ったのだろうかと思い当たって、今日は何も考えずに過ごそうとこっそり気持ちを引き締めた――じゃなくて気を緩めた俺です。
 待ち合わせの公園から夜道をゆっくり歩いてきてたどり着いた神社の前は、それなりに賑わっている。浴衣を着た男女が仲良く腕を組んで通り過ぎ、でかい声で何か叫んでいる中学生っぽい男子の集団が走り過ぎ、小さな子供の手を引いたおじいちゃんがゆっくりと提灯の赤色に染まって行く。
「なんだか懐かしい感じがしますね、夏祭り」
「ふうん……ということは、去年は来なかったのね」
「どうだったかな。もしかしたら来たかもしれません」
 妹を連れて? それとも誰か友達でも誘って来ただろうか。
 思い出はぼんやりと霞んでいていつまでも像を結ばなかった。
「はは、なんだか全然覚えてないみたいだ。やっぱり来なかったのかもしれない」
「そう。どちらでも一向に構わないわ。あなたは今ここにいる。私と一緒にね」
 そんなの分かってますよ、と言うほど俺もバカでは無かった。これは先輩なりの気遣いに違いないからだ。俺のさもしい青春をバカにするつもりが無いという意思表示だろう。有難く受け取っておく。
「ところで先輩、どうでもいいことを聞いてもいいですか?」
「不思議な問いね。言ってごらんなさい」
「風鈴どこにやったんですか?」
 待ち合わせの時は確かに持っていたのだが、いつの間にか鈴の音なんか聞こえなくなっていた。
 先輩はバッグの類も持っていないし、どこにやったのか不思議に思っていた俺です。
「え、風鈴? 捨てたわ」
「何故!?」
 驚いて振り返ると先輩は真顔である。
「いらないからに決まっているじゃない。もしかしてあなた、蜜柑の皮やペットボトルの空容器を大事に取っておく人?」
 いやそんな変人には一度も会ったことがない。
 というかそれは間違いなくゴミだから捨てる。
「風鈴って、割れたりするまではゴミじゃないと思いますけど!?」
「壊れていなくてもゴミになるものってたくさんあるのよ。例えば結婚指輪とか、離婚したらゴミでしょう?」
「例えがいちいち極端ですね!?」
 結婚したことないからわからないですけどね! ゴミなんですかねそれは!
「禁煙した人にとって煙草はゴミでしょう?」
「むっ……まあそれはそうかもしれませんが」
「核兵器はゴミでしょう?」
「くっ……いきなり地球規模の正論を持ち出したぞこの人……」
 俺が怯んだのが面白かったのか、先輩は真っ赤な提灯の下でくすりと笑った。
「あの風鈴はちゃんと役目を果たして、風鈴の抜け殻になったのよ。私が聞きたかった音も、あなたに聞かせたかった音も、もう二度と鳴らせない。そんな寂しいものを取っておく勇気なんて私には無いわ」
 先輩は呆然としている俺の前を歩き始める。
「さあ行くわよ後輩。ぼうっと立っているつもりなら、あなたも捨てていくけど」
「それシャレになってないんですけど」
 先輩の楽しそうな笑い声が、夜店の喧騒に溶けていく。
 前を静かに歩いていく彼女の背中を追いながら、俺はほんの少し不満である。
 捨てるくらいなら俺にくれればよかったのに。
 あの風鈴の音を聞くたびに、何度でもこの夏を思い出すかもしれないのに。
 今度は彼女に自分の考えを伝えよう。
 あなたにとってゴミでも、俺には宝物かもしれませんよ、って。

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お通し三皿目

「"自分をがっかりさせることは避けねばならない!"らしいよ、兄」
 妹のマツリがそんなことを述べた。
 広げているのは女性ファッション誌で、どうやらコラムかなにかを読み上げたらしい。
 突然そんなことを言われても俺としてはよく分からなかったので、怠惰を絵に描いたような格好でソファに寝そべっているヤツをチラッと見るにとどめて返事はよした。
 口を出すと余計に何か説教めいたことを言ってきそうな気配がしたのだ。
「聞いているの、ねえ聞いているの兄」
 追撃の声をスルウして俺は一心不乱にスクワットをしながらバラエティー番組を見ている。
 太腿の辺りが疲れてきて甘ったるいナタデココになってしまったような感じがある。乳酸というのは恐ろしい……。
「こらぁ! 人の話を聞けこらぁ! スクワットバカ!」
 罵声と共にクッションが飛んで来て背中に当たった。流石に苛立った俺ではあるが、俺はヤツより三歳も多く生きた賢者であるから、寛大な心で許してやることにしてスクワットを続ける。我ながら高潔である。
「おい! あの綺麗な女の人とデートしたから調子こいてんだろうてめえ! 先輩ー好きですう……お、お、おで、あ、あなたが、あな、あなたが、好きですう……キスしたいですう、ぶひいぶひい……ってキモいんじゃボケ!」
 無視していたら余計にエキサイトしてボルテージ上げていた。誰の真似だかわからない気持ち悪いモノマネまで交えて煽りまくってくる。マツリの中の俺はあんなに気持ち悪いんだろうかと思うとゾッとしたが、流石にそれは被害者妄想の域にあると思ったので傷つくのもほどほどにして制裁することにした。
 俺はヤツの近くまでずかずか歩いていくと、背中側から両脇の下に手を入れた。
「う、うわあああああああひゃあああああああああああああ!!!!」
 マツリが抗議的な奇声を上げているが俺は行動をやめない。
 子供に高い高いするように両脇を持って天高く掲げた後ぐるぐる回る。
 すると遠心力でマツリの足が地面と水平近くまで振り上げられ空を飛んでいるような感じになる。
「うわあああああああああ人殺しーーーーーーーー!!!!」
 タケコプターのようになって怒っているマツリはとてもおもしろい。
 すぐに疲れてきたのでソファーの上にやつを捨てる。ボンっと尻で弾んで顔からソファーに倒れ込んだ妹を見て俺は満足した。正義は勝つのだ。
「自分にがっかりしないためにはな、日々の鍛錬が必要なんだぜ」
 倒れ伏した妹の背中にそんな言葉をかけて、俺はスクワットを続けた。

お通し二杯目

「丑三つに散華囁き果てて夢マタハジメヨウ空蝉の歌……」
 先輩の清流のような唄声が背後から聞こえる。
 それから、凛、と呟いた風の鈴の音色。
 艶やかと言えば少し身内贔屓ではあるが……イヤイヤ、これは常識いささか狂態である。先輩、たぶん俺を強襲する為に鈴など持ち出したのだ。凝らした趣向を笑うつもりなど微塵も無いけれど。
「オカシナ歌ですね。誰の歌ですか」
「もう百年も前に、刻限板という方が唄ったそうよ」
「まず浅学非才を詫びさせて頂きたい。それ、どんな意味があるんですか」
 俺は対して興味もなかったが会話の接穂として放ってみる。

「真夜中に起きたら花の散る音が聞こえたような気がしたけれど夢だったのかしら、そろそろ蝉の歌が聞こえそうな季節なのにね……」
 という歌よ。と先輩は呟いて俺の耳元で鈴を小さく鳴らした。凛。

 説明されれば良い歌のような気もしたが、分からないものは分からないのだ。
「言われてやっと分かる歌など、なんの意味がありましょうか」
「まあ、尊大ちゃん……ウフウフウフ、意味などあって無きが如し。歌の真髄は理解することではなく、感じることではなくて?」
 言い負かされた俺は、そこでやっと振り返ることにして、先輩の姿を見るのだった。
 公園の薄白い照明の下に、不吉さと清廉さとグロテスクさと美しさの入り混じった曼珠沙華の花畑が描かれた浴衣を着た先輩が手に風鈴をぶら下げて幻覚のように立ち尽くしている。髪を後頭部でまとめて前髪をピッシりとピンで揃えているかんばせは人形のように白く作り物めいて美しく、ただ口紅の黒いほどの赤が脳裏に焼き付けられる。
「綺麗だ、と言いなさい」
「綺麗だ……」
 ご破算で願いましては半分冗談で半分本気で、答えは夏祭り。
「いつまでも見惚れていていいのだけれど」
「蚊に食われます。焼いたそばでも食いに行きましょう」
 力技で顔を背けて俺はいつもどおりを装って先を歩く。
 とんとんとんとどこかで気の抜けた太鼓の音がしている。不定期なリズムにあわせてかしゃんかしゃんしゃんと鳴り物が重なって、風が吹き抜けるような笛の音が、出処も定かでない癖に俺の胸をかき乱す。

お通し

 夏の日だとして。
 空に入道雲、の向こうの真っ青な空、どこまでも広がっている。遮られることなく。迫ってくるような巨大な太陽、光の塊。宇宙人もどこかにいるんだと思えるような宇宙のことなど思考してしまうような偉大な。
「何をお考えになって?」
 と先輩は言う。
 そのオーソドックスな言葉に少し混乱していた僕は表情と思考を固める。ふやけていたので。よくあることだ。
「戒めについてです。今生の設定について、というべきか」
「あら、異な事おっしゃられる。ふふふ……それがお好きならどうぞお続けになって」
「まさか好きというわけではないけれども」
 と俺は思わず突き出た反発様の口調を改めようと「失礼」と述べ、頭をわずかに振って胡瓜のことなぞを浮かべてみる。
「ただ……考えざるを得なかったのです。囚われているのだ、俺は」
「アハ、アハ、アハ……大仰ですこと。人類とはもっと自由なものだと聞きましたよ」
「誰に聞いたか知りませんが、そいつは嘘つきです」
 やはり拗ねたような口調の修正が間に合わなかった莫迦な口を縫ってしまいたい。
「嘘も方便だそうです。神は信じる者だけをお救いになられるのだとか」
 先輩はほがらかに詐欺のようなことを奏でている。
「信じているのですか、自由などというものを」
「いいえ、そんなの生ぬるいわ」
 先輩は空に向かって言った。
「わたくしは真実いつでも自由なの」
 そうかこの人は、信じたいなぞと露とも思わず、心から確信しているのだ。
 己の自由を。

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